福井静さんのラストコンサートが鹿児島宝山ホールで行われました。 この日のライブで「シンガーソングライター福井静を引退する」とのことで、 活動十年余りの集大成となるコンサートです。
 思い起こせば福井静さんを知ったのは2003年のデビューの年で、全くの偶然でした。 CDショップの試聴機でリストアップされていた、その月の新譜を何の気なしに 聴いていたときでした。「哀しみのメロディー」の唄い出し部分を少し聴いた瞬間に 試聴機を止めたことを憶えています。これは“買い”だと。しかし在庫は無かったので 即注文。今のようにネットで調べればホームページがヒットして…というような 状況ではなかったので、届いたCDの帯にあったホームページのURLを基に翌日の 宮崎でのイベントを知って、あわてて見に行ったのが2003年12月6日のことでした。
 それ以来、静さんの活動拠点である鹿児島には何度も足を運びました。この日は 少し早めに鹿児島に着いたこともあり、鹿児島中央駅前のダイエーでのイベントや 十字屋クロス、SRホールでのライブのことなど、鹿児島の街の中に静さんとの 思い出の場所を見つけることができました。桜島の火山灰が目に入って涙しながら。
 会場は天文館近くの宝山ホール。場所を確認しに行った15時過ぎはまだ数十人と いったくらいでしたが、すでに開場を待っている人の列がありました。開場時間の ちょっと前に行ってみると、200人くらいの列になっていました。宝山ホールは 約1500席のホールで、客数は6~7割といったところでしょうか。自由席だったので 後ろの全体が見渡せる席を選択。会場アナウンスは今成佳奈さんの声でした。 開演時刻の18時を過ぎるとすぐに待ちかねたお客さんから手拍子が起こります。 それが少しずつ大きくなったところでプロデューサの橋本さんが登場。 開演時刻に間に合わないお客さんがいることを考慮して、その間に橋本さんが あいさつをし、静さんとの2つの約束について話されました。その約束、 一つ目は音楽を一番に考えた生活をすること。恋愛禁止ということは言わないけれど 音楽より好きにならないこと。二つ目は、10年間は音楽活動を支えるのでアルバイト はせずに音楽だけで食べていくこと。そして橋本さんらしい、お客さんへの諸注意。 一般的な撮影禁止等の話や携帯電話のマナーモードなどに加え、演奏中は音楽に 集中するため会場を出入りしないことも述べられていました。
 そして福井静さんを呼び込みラストコンサートがスタートします。18:12頃でした。 ステージ中央やや左にグランドピアノ、やや右にキーボードがセッティングされた だけのシンプルなステージです。まずはグランドピアノへ。

 1. Dreamer
    凛とした唄です。「一人じゃない、皆がいる」と訴える応援歌。
 2. 月
    後ろのスクリーンに満月が映し出されます。歌詞は満月や三日月が出てくる
    内容です。スローで和風な印象の曲。
 MC 「皆さんこんばんは。本日は“福井静ラストコンサート”へお越しくださり
    ありがとうございます。」
    「台風を心配、雨を心配していたけれど、予想外の火山灰が降りました。
    桜島に“頑張れ”と言われている気がします。(火山灰で)皆さんにはご迷惑を
    おかけしました。」
 3. ケセラセラ
    オケ使用、ハンドマイクです。力強い張りのある声でした。
 MC 次の曲は不思議な世界観の曲で、唄い方も変えてみました。
 4. 迷い
    オケ使用。口腔を広げるようなオペラなどの唄い方を思わせる印象でした。
 5. 秘密
    オケ使用。人に言えない恋をテーマにした曲。
 6. ごめんね
    この曲から再びグランドピアノ。静さんらしい“泣きの歌”です。
 MC 「失恋はすごい喪失感があります。」
 7. 廻る羅針盤
 8. 遠く向こう
    波のSEからスタート。柔らかな唄声です。意図どおりなのかわかりませんが、
    一部アカペラでした。ある種のレクイエムとも言えます。
 MC ハンドマイクでセンターへ移動します。
    「ずっと聴いていると重たいと思うので、休憩時間を設けました。」
    FM鹿児島でラジオ番組を9年間、他にもいろいろなテーマソングやCMソングを
    唄わせてもらった。
 9. ホームタウン
    唄い出しはややシャープ気味。ノンビブラートですっきりとした唄です。

18:55頃。ここから15分休憩。休憩の間に福袋ならぬ“福井袋”が会場内でも
販売されていました。CDに加え、この日の日付入りサインが入っているとのこと。

後半は19:13頃スタート。

 1. エール
    キーボード使用。鹿児島の高校野球選抜大会でのテーマソング。
 MC ここからはCMソングやテーマソングを。
 2. “育てよう今を…”
    JAグループ鹿児島のCMソング。CMの部分しかないとのことで短め。
 MC 次はSAKODAホームhファニシングス(九州に数店あるインテリアや雑貨の店)の
    CMソング。もともとはCM部分しかなかったけれど1曲に広げることを提案され、
    SAKODAの店に行ってお客さんの様子を見て仕上げた。
 3. ちょっといいな
 MC 「CDにはなっていない曲ですが、SAKODAに行けばずっと流れています。」
    これまでは大きなホールよりも皆の顔が見える距離で唄うことが多かった。
    「ここから2曲は客席に下りて唄います。」
 4. 素顔
    オケ使用。客席をゆっくり、だけど息を切らしながら回って唄います。
    ステージに近い1階相当部分が中心。
 5. マチ
    オケ使用。ステージに比較的2階相当部分が中心。
 MC ステージへ戻ります。「全部回っていたら曲が終わってしまいました。」
    ここでゲストの今成佳奈さんを呼び込みます。「(年齢は)一つしか違わないのに
    高校生に見えてうらやましい。」
    佳奈さんに数曲唄ってもらいます。
 6. “みんなの夢…”(今成佳奈)
    鹿児島総合信用金庫のCMソングとして佳奈さんが唄った曲とのこと。パーンと
    はじけるような唄い方です。
 7. “懐かしい風景…”(今成佳奈)
    JR九州のCMソング。
 MC 次は人権同和問題のCMソングで共作した曲。鹿児島初披露とのこと。
 8. respective life
    静さんはKeyVo、佳奈さんはVo。
 MC 休憩までの間に集めた“静さんへの質問”について佳奈さんが質問、それに
    静さんが答える形で進行します。
    “悲しい曲のような質問はある?”
      →そのままの内容はないけれど、気持ちは投影されている。
    “「ナチュラル」の歌詞の「下った道の後は必ず上を向いている」の気持ちは?”
      →願望もあるけれど、底まで行けばあとは上がるしか道がない、そうであって
        ほしいと思って書いた。
    “これからも鹿児島にいる?”
      →いたいです。鹿児島中心に活動してきて、簡単に心は変えられません。
    “音楽は仕事としてどうでしたか?”
      →苦しいことはたくさんあった。曲作りがうまくできず壁にぶち当たることも
        あった。イベントなどで唄っているときは皆から力をもらって、音楽を通して
        心がつながるような親しい感覚があった。音楽活動を続けさせてもらえて
        よかった。
    “結婚するんですか?”
      →引退を発表してからほとんどの人に同じことを訊かれたけれど、結婚するため
        引退するのではない。結婚したとても音楽活動はできるだろうし、10年間、
        30歳までとデビュー前に決めていた。でも2,3年前くらいに辞めたいと思った
        時期があった。それは体の限界を感じ、ピークを過ぎたと感じたから。でも
        10年と決めていたので、それまではと思って今まで続けてきた。
    “事務所を辞めさせられた?”
      →そんなことはない。引退を勧められたわけでもない。すべて自分で決めた。
    “引退後の予定は?”
      →今日のことでいっぱいで、先のことは何も考えていない。何か月かゆっくり
        して、考えていきたい。
    静さんの衣装替えの時間、佳奈さんのステージとなります。
 9. 水の惑星(今成佳奈)
    オケ使用。スケールの大きなすがすがしい唄です。
    曲が終わると佳奈さんが下がり、静さんが登場します。
10. かげおくり
    グランドピアノ。
 MC 次の曲には4つのストーリー、4つのメッセージが込められている。どれかが、
    場合によってはすべてが当てはまると感じる人がいるかもしれない。
11. ひとこと
    「ありがとう」「ごめんなさい」といった感謝や謝罪をテーマにした曲。
12. 忘れかけてたメロディ
    細かめのビブラートで唄います。
 MC 次が最後の曲。この曲が今の心境と重なる。
13. 大切なコト
    グランドピアノ。「ありったけの思いを歌にしよう、心に届くように」という
    歌詞が重みを感じさせます。

本編終了。20:30頃。アンコールですぐに登場。グランドピアノへ。

E1. サカナ
 MC プロデューサに「納得いかなかったら最初からやり直してもいい」と言われて
    いた。「魂のこもった「サカナ」ではなかったので、もう一度唄いなおして
    いいですか?」
E2. サカナ
    声の不安定な部分とか、ミスタッチとか、だんだん気になるようになって
    いました。
 MC やりなおしをさせていただいてすみません。
    「この曲を唄うのも今日が最後です。」声を詰まらせます。
E3. ナチュラル
    キーボード。
 MC 「こんなにたくさんの方にお越しいただいて、本当にありがとうございました。
    自分で考えてしゃべると泣いてしまうので、カンニングペーパーを見させて
    ください。」
    「シンガーソングライターとして皆さんの前で唄わせていただく最後の日と
    なりました。声がかれるまで唄うことも一つの方法かもしれませんが、
    10年の音楽活動でたくさんの方に応援して支えていただいた。唄でお返しする
    のが本来なのですが、出口でお一人お一人をお見送りさせていただきたい。」
    「これが本当に最後に唄う曲です。この曲を選びました。デビュー曲の
    「哀しみのメモリー」です。」
16. 哀しみのメモリー
    グランドピアノ。
 MC 福井静でした。ありがとうございました。

 終演は21:02頃。
 良かったと思うのは「ひとこと」「大切なコト」など。
 本人も話していたように静かで重たい曲が多いのですが、芯の強さ、意志の強さ というものを感じさせる内容でした。レコーディングではないので、完璧を追及して 何度もやり直すというわけにはいかないのですが、音楽へのこだわりが感じられます。 アンコールがあったこと、アンコールですぐに登場したこともあり、またアンコール したら唄ってくれそうな印象があるくらい、“引退”を感じさせません。もう二度と 会えない淋しさも感じなければ、志半ばの無念さも感じません。きっとそれは、 静さんが文字通り「自分のペース」で音楽活動を貫いた結果なのだと思います。 音楽活動を辞めざるを得ない状況に追い込まれるアーティストが多い中、 余力がある中、きっちりと自らの意志で区切りを付けた潔さと、それを皆に 認めさせたコンサートだったように思います。 引退宣言はあったものの、これからも音楽のそばにいて幸せでいてもらいたい ものです。
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